2018.04.05(木)選手

【第11回/ダイヤモンドアスリート】クレイアーロン竜波選手インタビュー

2020年東京オリンピック、その後の国際競技会での活躍が期待できる次世代の競技者を強化育成する「ダイヤモンドアスリート」制度。単に、対象競技者の競技力向上だけを目指すのではなく、アスリートとして世界を舞台に活躍していくなかで豊かな人間性とコミュニケーション能力を身につけ、「国際人」として日本および国際社会の発展に寄与する人材に育つことを期して、2014-2015年シーズンに創設されました。すでに3期が終了し、これまでに9名が修了。昨年11月からは継続・新規含め全11名が認定され、第4期がスタートしています。

 第4期となる「2017-2018認定アスリート」へのインタビューを行ってきたこの連載も最終回。第11回は、800mのクレイ アーロン 竜波選手(相洋高校)です。

◎取材・構成/児玉育美(JAAFメディアチーム)
◎写真/陸上競技マガジン、フォート・キシモト 


ライフセービング競技で全国優勝も
海で「誰よりも速く」を培う


――クレイくんは、ライフセービング競技で全国クラスの実績を持っているそうですね。今も続けているということですが、ライフセービング競技は、どういうきっかけで始めたのですか?
クレイ:もともと両親が、3人の子どもの名前にみんな「波」を入れるほどの海好きで、自分も小さいころからサーフィンとかをやっていたんです。それで両親が、ほかにも海でやれるスポーツはないか探していて、ライフセービングという活動があると知ったことがきっかけです。まずは、体験してみたらということで、小学2年のときから始めました。

――お父さまはアメリカの方ですよね? クレイくんはずっと日本で?
クレイ:父がアメリカ人、母が日本人です。自分は日本で生まれて、半年後くらいにいったんアメリカに帰って、3年後に戻ってきました。そこからずっと日本に住んでいます。

――では、言葉は、日本語も英語も?
クレイ:英語も問題なく話せます。ただ、アメリカで生活したのは小さいころだったので、向こうの環境とかはあまり知らないです。

――小さいころから海が近くにある生活だったのですか?
クレイ:はい。家から歩いて数分で海です。

――ライフセービング競技には、いろいろな種目があるということを今回初めて知りました。
クレイ:ライフセーバーというのは、日本語にすると「人の命を助ける人、守る人」というような意味で、もともとは夏の海水浴場などで、海を楽しむ人たちが事故に遭わないように監視したり、もし何かあったときは救助したりする活動に取り組んでいる人のことをいいます。実際にライフセーバーとして活動できるのは高校生以降に資格をとってからなのですが、クラブがあって、小学校のころは海に慣れて楽しむことを身につけ、中学校では実際に人を助けるために必要なことを学んで練習していきます。その「人を助けるために必要なこと」が競技化されていて、大会も行われているんです。

――中学生の年代で行われる全国大会が、クレイくんも出場している全日本ユースライフセービング選手権ですね。中学2年・3年のときには所属する西浜SLSCが総合優勝を果たしていますし、クレイくんも「サーフレース」「ボードレース」「ニッパーボードレース」「1kmビーチラン」「ビーチフラッグス」などのさまざま種目に出場して優勝や上位の成績を収めています。
クレイ:これらの種目は、「人を助けること」が一番の目的なんです。例えば、「ビーチフラッグス」は、事故に遭っている人のところに少しでも早く行って、その人を助けることを想定しています。

――だから、タイムではなく着順なのですね。
クレイ:はい。目的が「誰が一番早く助けに行けるか」で、それが競技化されているだけなので。だから、ライフセービングのコーチからはいつも、「競技で優勝しても、人を助けられなかったら意味がないぞ」と言われています。

――なるほど。勝敗を競う一般的なスポーツとは異なり、「人を助けられる身体をつくったり、助けるために必要な能力を高めたりする」ことが一番の目的で、そのためにできたスポーツなのですね。
クレイ:そうですね。
 

ライフセービングと両立しながら
800mで全中2位に


――中学から陸上を始めたきっかけは?
クレイ:もともと走ることも好きで、小学生のころはよく鬼ごっこをやったりしていました。それで中学生になって、友達と一緒に、「走るのが好きだから陸上部に入ろう」と、けっこう軽い気持ちで入部したんです。

――ライフセービングと陸上の練習を両立していたわけですが、実際に、どういう感じで?
クレイ:ライフセービングは、月・水・金に朝練(朝練習)があったので、それに参加していました。5時半に海に集合して、練習は5時45分からだいたい7時まで。江ノ島をボードで1周するとか、自分たちでブイを打ってそこまで泳いだり、ビーチを走ったりということをやって、7時半くらいに家に帰り、朝食をとって8時すぎに学校へ。授業が終わってからは陸上部の練習をやっていました。夏休み中は、ライフセービングの練習が6~8時で、陸上部の練習も午前中だったので、陸上のほうは少し遅れて行き、ライフセービングをアップ代わりにして、陸上部の練習に参加するというふうにしていました。

――種目は? 最初から中距離を?
クレイ:中1の後半くらいまでは短距離でした。中1の終わりあたりで1500mを走ってみたら、4分29秒くらいで走れてしまって、それで中2からは長距離をやるようになりました。中2の終わりころに先生から「スピードもあるし、持久力もあるから800mをやってみないか」と言われて走ったら、けっこういいタイムが出たので、中3からは800m、1500mをやることになりました。

――中学3年のときは、全日本中学校選手権(全中)800mで2位になっています。また、1500mにも出場していて11位という結果でした。中学1年、2年時は競技会に出ていたのですか?
クレイ:中1のときはライフセービングを優先していて、大会が重なったために、県大会の予選となる地区予選に出ていません。2年のときは地区予選には出ましたが、県大会には進めませんでした。

――中3で経験した全中というのはどうでした? ライフセービングの全国大会とはまた異なる雰囲気だったのではないかと思うのですが。
クレイ:陸上の全国大会は初めてで緊張したというのはありました。でも、全中出場が決まった中3のときは、それまでとは逆に陸上の練習を優先して、けっこうきつい練習もやっていたので、先生から「自分を信じろ」と言われていました。なんかうまく勝ち上がっていったという感じです。

――そこでいきなり自己新を出して2位に。高校でもそうですが、クレイくんのすごいところは、いつも全国大会の決勝でしっかり力を発揮して、結果を出していることです。集中力が高いというか、本番に強いタイプなのだなと思っていました。
クレイ:ありがとうございます(笑)。レベルの高い舞台に上がると、その雰囲気に気持ちが乗りやすいタイプなのかもしれません。

抜群の勝負力で、躍進続けた高1シーズン



――高校を相洋高校に決めた経緯は? 中学の顧問だった林嗣先生も相洋の出身で、相洋高校で顧問を務める銭谷満先生の教え子に当たるそうですね。
クレイ:推薦の声をかけていただいた高校の練習に参加したのですが、自分としては、相洋の練習がしやすかったというのがありました。それと、銭谷先生と長距離の小池進先生が中学にいらしたとき、自分からはライフセービングの話を一切していなかったのですが、両立することを前提に「一緒に頑張っていきましょう」と言われたんです。そう言ってくれたのは相洋だけだったので、「ここでなら頑張れる」と思って相洋へ進むことにしました。

――高校1年目のシーズンはいかがでしたか?
クレイ:正直、自分もここまで記録が伸びるとは思っていなかったというのがあって…。

――目標は、どのくらいに置いていたのですか?
クレイ:もともとの目標が、1年生でインターハイ出場、2年生インターハイ入賞、で、3年生でインターハイ優勝という流れでいこうかなと思っていたんです。そうしたら、1年生の段階で、インターハイ2位、国体では優勝することができました。先生のおかげというのが大きいと思います。記録も、1分50秒台まで来るとは思っていなかったので。

――高1最高記録となる1分50秒67をマークしたインターハイは、大会前のベストが1分53秒99だったのに、予選で1分53秒16、準決勝では1分52秒34と自己新を連発。決勝では、それをさらに大きく上回る1分50秒67で走り、1年生ながら2位に食い込んで関係者を驚かせました。ご自身でも「びっくり」の結果だったのですか?
クレイ:はい。けっこう。

――1分50秒台のレースは、それまでのレースと違うところはありましたか? 
クレイ:高い舞台になると周りが速くなるので記録が出やすいのかもしれません。いつもならきついところが楽に走れたというか、そこまで「すごくきつい」という感じがしなかったです。

――そのペースや、レースの流れにうまく乗れて、きつさを感じないで走れた?
クレイ:はい、そういう感じです。あと、アドレナリンが、がんがん出ていたのかもしれません(笑)。

――秋の愛媛国体では、少年男子共通800mを制しました。共通種目で1年生が優勝するのは、そう簡単ではないことなのです。「勝ちたい」という気持ちで臨んでいたのですか?
クレイ:先生方とは「順位を狙おう」という話をしていました。やはりインターハイ2位という結果が大きな自信になっていたと思います。また、このときは、先生からは、プログラムに載っている自己記録は気にするなと言われました。「戦うときは、同じ環境で、同じ状態。気持ちで負けるな」と。それがすごく自分の心に残りましたね。「持ち記録とかは関係なくて、レースに挑むときの気持ちが大事なんだ」ということを、そのときに知ったように思います。

――その話は、なんだかライフセービング競技で「誰よりも一番速く」を目指すことと通じるところがあるように感じます。ライフセービングでは、「人を助けるために、誰よりも速く」を目指すと先ほど伺いましたが、そのライフセービングで取り組んできた「誰よりも速く」という経験が、クレイくんの「ここ一番で力を発揮できる」要因になっているのかもしれないと感じました。
クレイ:ああ、確かに、その部分の感覚は似ていると思います。つながるところがあるのかもしれませんね。

――レースを拝見する限り、後半で勝負をかけていくタイプなのかなと思ったのですが、得意とする800mのレースパターンは?
クレイ:記録を狙うときは最初から行くのですが、勝負となると最後にラストスパートをかけますね。

――「典型的な前半型」とか「後半勝負型」とかというわけではない?
クレイ:ないですね。けっこうそのときの状況によって、変えられる感じです。

――それも、すごい強みのように思います。いろいろなレースができるわけですから。
クレイ:そうかもしれませんね。意外といろいろなパターンのレースができるほうだと思います。

800mに、4×400mRに、駅伝に
「今、やっていることを一生懸命やる」の心意気で挑む2018年


――高校に入ってからは、ライフセービングの練習はできているのですか?
クレイ:大会には出ましたが、通学に時間がかかるので朝練に行けなくて、1年の段階では陸上を優先したという感じです。今年は、空いている日にはなるべく行きたいなと思っているのですが。

――高校の陸上部では、長距離ブロックと短距離ブロックを行き来しながら練習していると伺っています。こちらも、ある意味「両立」ですね。
クレイ:そうですね。駅伝も長距離でやっていますので。

――神奈川県高校駅伝では2区(3km)で区間賞、関東高校駅伝でも区間2位という結果を出しています。昨年から今年にかけては、どういう点に課題を置いてやってきたのですか?
クレイ:この冬は、けっこう短距離のほうで練習してきました。スピードを意識してやってきたという感じです。

――手応えは感じていますか?
クレイ:短距離の先輩たちと競り合えるようになってきたというのはあります。

――2018年シーズンの目標をお聞かせください。
クレイ:800mでは、インターハイで優勝すること。記録は、1分50秒を切ることができたら…と思っています。あとは、マイル(4×400mR)もやっていて、けっこういい記録(※2017年に1・2年生のみで3分10秒89をマーク)が出ているので、チームとしてインターハイ優勝を狙いたいという気持ちが強いです。そして、駅伝でも都大路(全国高校駅伝)に出場できたら…。やはりこれもチームで狙いたいなと思っているんです。

――今シーズンはU20世界選手権やアジアジュニア選手権がありますが、出場してみたいという気持ちは?
クレイ:大会があることは知っています。でも、まずはインターハイですね。インターハイに向かって頑張っていけば、出場の可能性も生まれてくると考えています。なので、まずは1つだけに…インターハイに集中しようという感じです。その結果、(U20世界選手権等に)出られることになったら、そのときは、そこでも頑張りたいと思います。

――将来の夢はありますか?
クレイ:まだ具体的にはないです。

――陸上ではどうでしょう? オリンピックや世界選手権に出てみたいという思いは?
クレイ:そうですね…。このまま行けば、出場することができるかもしれないとは思うのですが、はっきりしたイメージはないです。自分は、「今、やっていることを一生懸命やっていけば、将来の夢もだんだん見えてくる」というふうに考えていて、今でいうなら、陸上とライフセービングを頑張っていけば、これからだんだん将来の夢が明確になっていくのではないかと思っています。なので、今は、そこまで明確なものはないんです。

――「今できることに全力を尽くしていれば、自ずと道が拓けてくる」という考え方でしょうか。2018年シーズン、その道がさらに切り拓かれて、可能性が広がっていくことを楽しみにしています。ありがとうございました。

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